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浮気の証拠が認められないケース
浮気の証拠が認められないケース

配偶者の浮気や不倫の疑いを抱いた際、探偵事務所に調査を依頼することは決して珍しくありません。しかし、探偵事務所が時間と費用をかけて収集した証拠が、必ずしも法的に有効な「証拠能力」を持つとは限りません。離婚調停や慰謝料請求といった法的手続きにおいて、せっかく集めた証拠が認められず、期待通りの結果が得られないケースも存在します。本稿では、探偵事務所が行う浮気調査において、どのような場合に証拠が認められないのか、その具体的な理由と、法的に有効な証拠を確保するための対策について詳しく解説します。

証拠収集方法に問題があるケース

探偵事務所が浮気調査を行う際、その手法自体が違法であったり、個人のプライバシーを著しく侵害するものであったりする場合、得られた証拠は法廷で採用されない可能性が極めて高くなります。これは「違法収集証拠排除法則」と呼ばれ、適正な手続きなしに得られた証拠は原則として排除されるという重要な原則です。

法的に許されない手段で収集された証拠は、たとえその内容が真実を物語っていたとしても、その収集プロセスが違法であるため排除されます。具体的には、対象者の自宅、ホテルや旅館の部屋、あるいはそれに準ずるプライベートな空間に無断で侵入して撮影や録音を行う行為は、刑法の住居侵入罪(刑法第130条)に該当する明確な違法行為です。たとえ決定的な浮気の証拠を得られたとしても、これは住居侵入として法廷で採用されないだけでなく、探偵事務所や依頼者自身が刑事罰の対象となる可能性も否定できません。また、対象者の承諾を得ずに、その所有物や居住空間(自宅、車内、職場など)に盗聴器や隠しカメラを設置する行為は、プライバシーの侵害に加えて、電波法や迷惑防止条例などに抵触する可能性があります。特に居住空間への無断設置は住居侵入罪に問われることもあり、こうした手段で得られた証拠は、その違法性の高さから法廷で無効と判断されるのが一般的です。さらに、対象者への執拗な追跡、尾行、待ち伏せ、見張りといった行為が、ストーカー規制法に抵触するレベルに達した場合、証拠収集の正当性が著しく損なわれます。対象者の日常生活に過度な支障をきたしたり、精神的な苦痛を与えたりするような過度な追跡・監視は、証拠としての価値が認められないだけでなく、探偵事務所や依頼者が法的責任を問われるリスクも伴います。適法な調査においては、対象者のプライバシーや平穏な生活を侵害しない範囲で、適切な距離と方法を保つことが不可欠です。

探偵調査においては、対象者のプライバシー権と、不貞行為を立証するための証拠収集の必要性のバランスが極めて重要になります。このバランスを欠くと、証拠の有効性が争われる可能性があります。公共の場での撮影は原則として認められていますが、個人が通常プライベートな空間と認識している場所(例:自宅の敷地内、ベランダ、窓から見える室内など)や、密室での会話などを許可なく撮影・録音することは、プライバシー侵害にあたります。特に窓越しに室内を撮影したり、他者の私的な会話を盗聴したりする行為は、法的な問題を引き起こしやすく、得られた証拠も認められない可能性が高いです。また、浮気相手以外の無関係な第三者が写り込んだ写真や映像を、その人物の同意なしに証拠として使用することは、肖像権侵害にあたる可能性があります。法廷に証拠として提出する際は、不貞行為に関係のない第三者の顔にはモザイク処理を施すなど、プライバシー保護への十分な配慮が求められます。

証拠の信憑性に問題があるケース

デジタル技術の発展に伴い、写真や映像、音声データなどのデジタル証拠は加工・改ざんが容易になったため、法廷では証拠の「真正性」(それが本物であり、改ざんされていないこと)がより厳しく審査されるようになりました。

証拠として提出されたデータに改ざんや加工が疑われる場合、その証拠は証拠能力を失います。画像編集ソフトウェアを用いて写真を合成したり、特定の箇所を削除・追加したり、あるいは映像を恣意的に編集して文脈を大きく変えたりした場合、その証拠は「偽造されたもの」とみなされ、法廷で証拠としての価値を失います。裁判所では、提出されたデジタルデータに対してデジタル鑑定が行われることもあり、改ざんの有無が専門的に調べられます。また、デジタルカメラやスマートフォンの日時設定を意図的に変更し、実際とは異なる日時に撮影されたように見せかける行為は、証拠の信頼性を著しく損ないます。これは証拠の捏造とみなされ、発覚すれば全ての証拠の信憑性が疑われる原因となります。録音された音声データの一部を削除したり、特定の会話内容を編集して発言の順序を入れ替えたり、発言者の意図を歪めるような加工を施したりすることも、証拠としての価値を完全に無効にします。音声解析によって編集の痕跡が検出される可能性も高く、その結果、証拠が不採用となるだけでなく、信頼性を失うことにもつながります。これらを総じて証拠の改ざん・加工と呼びます。

浮気調査では、単発の不貞行為だけでなく、継続的な関係性を立証することが重要となる場面が多くあります。証拠の収集方法に問題がある場合、その連続性や一貫性が問われます。証拠写真や映像に正確な撮影日時(年月日、時間)が記録されていない場合、その証拠は信憑性に欠けると判断されることがあります。特に、浮気の継続性や頻度を立証する際には、複数の異なる日付にわたる証拠が必要不可欠であり、日付が不明確な証拠は有効性が低いとみなされます。また、証拠となる写真や映像だけでは、それがどのような状況で撮影されたのか、あるいは何を示しているのかが不明確な場合があります。例えば、特定の場所で撮影された写真があっても、その場所がどこで、どのような目的で使用されている場所なのかといった詳細な情報が不足していると、証拠価値は著しく低下します。探偵は、撮影場所の住所、時間、周辺の状況、写っている人物の具体的な行動などを詳細に記録し、証拠の背景を補完する情報を提供することが求められます。これらは証拠の連続性・一貫性の欠如に繋がります。

法的要件を満たさないケース

法的に「不貞行為」として認められるためには、特定の要件を満たす必要があります。単なる親密な関係を示すだけでは、証拠として不十分と判断されることがあります。

日本の法律における「不貞行為」とは、原則として配偶者のある者が、配偶者以外の異性と肉体関係を持つことを指します。レストランでの食事風景、デート中の写真、手をつないでいる写真、あるいはメールやSNS上での親密なやり取りだけでは、不貞行為(肉体関係)があったことの直接的な証拠とはなりません。これらは「親密な関係性」を示す間接的な証拠としては機能しますが、それ単独で不貞行為を立証することは困難です。決定的な証拠としては、ホテルへの入退室の様子や、明らかに肉体関係を推認させるような写真や映像、音声記録などが必要となります。また、ホテルに一緒に入る写真があっても、滞在時間が極端に短い場合(数分でホテルから出てくるなど、明らかに肉体関係を持つには不十分な滞在時間である場合)や、ビジネス目的の可能性が否定できない場合(会議室利用が可能なホテルや、明らかにビジネス上の関係性が示唆される状況で、不貞行為ではないと主張される余地がある場合)など、ホテル利用の証拠が不十分と判断されることもあります。探偵は、ホテルの種類、滞在時間、入退室時の様子、前後の行動など、不貞行為を裏付けるための詳細な状況証拠を多角的に収集する必要があります。

一度の不貞行為だけでなく、それが単発の出来事ではなく、継続的な関係性であることを示すことが、離婚請求や高額な慰謝料請求において重要となる場合があります。一回限りの不貞行為を示す証拠だけでは、それが継続的な関係性であると立証することは困難です。もちろん、一回の不貞行為でも慰謝料請求は可能ですが、より有利な結果を求めるには継続性の立証が望ましい場合もあります。収集された証拠と証拠の間に長期間(数ヶ月~年単位)の空白がある場合、その期間中に不貞関係が継続していたことを立証することが難しくなります。離婚を検討する上で、不貞行為の継続性は重要な判断材料となるため、可能な限り複数の時期にわたる証拠収集が求められます。これは継続性の立証不足に繋がります。

調査対象者の権利侵害

探偵調査は、調査対象者のプライバシーや名誉といった人格権を侵害しない範囲で行われるべきです。過度な調査や、その結果が不適切に扱われた場合、証拠の有効性が問題視されるだけでなく、探偵事務所や依頼者自身が法的責任を問われるリスクも生じます。

調査対象者の日常生活に過度に介入し、精神的な負担をかけるような過剰な監視(例:自宅周辺での長時間の張り込み、職場や学校への侵入に近い形での監視、行動の細かすぎる記録)は、人格権の侵害にあたる可能性があります。このような行為は、たとえ証拠を得られたとしても、その有効性が認められないだけでなく、損害賠償請求の対象となることがあります。また、調査によって得られた結果を、正当な理由なく不特定多数の第三者に開示したり、インターネットやSNSを通じて拡散したり、あるいは事実を歪曲して悪意のある情報を伝えたりすることは、名誉毀損罪(刑法第230条)やプライバシー侵害にあたる可能性があります。探偵事務所は、調査結果の取り扱いに関して厳重な秘密保持義務を負っており、依頼者もその情報を適切に管理する責任があります。

特に、夫婦間に子どもがいる場合、浮気調査の過程で子どもやその他の親族に不必要な影響を与えることは避けるべきです。調査過程で子どもが浮気調査の事実を知ってしまい、精神的な負担を負ったり、ショックを受けたりするような状況は避けるべきです。子どもの心情に配慮しない調査方法は、証拠収集の正当性や倫理性が問われるだけでなく、親権や養育費といった問題に影響を与える可能性もあります。これは子どもへの影響として問題視されます。また、浮気調査が原因で、当事者以外の親族(例:親、兄弟姉妹)に不必要な混乱や精神的苦痛を与えるような場合、その調査手法自体が問題となることがあります。探偵事務所は、依頼者の家族構成や関係性を考慮し、調査による波及的な影響を最小限に抑えるよう努めるべきです。これは親族関係への配慮不足に繋がります。

探偵業法違反

探偵業は、**探偵業の業務の適正化に関する法律(探偵業法)**によって規制されています。この法律に違反して行われた調査によって得られた証拠は、その有効性が否定される可能性があります。

探偵事務所は、弁護士法に定められた法律事務(例:離婚調停の代理、慰謝料請求の交渉、法廷での弁論)を代行することはできません。探偵がこのような非弁行為を行った場合、得られた証拠は無効になるだけでなく、探偵事務所が業務停止命令や刑事罰の対象となる可能性があります。探偵はあくまで「事実調査」の範囲に留まり、法的なアドバイスや手続きは弁護士に委ねるべきです。また、探偵業を営むには、公安委員会への届出義務があります(探偵業法第4条)。この届出を行わずに無許可で調査を実施した探偵事務所が収集した証拠は、その調査行為自体が違法であるため、法廷で証拠として認められない可能性が高いです。依頼者は、探偵事務所に調査を依頼する前に、必ず公安委員会への届出の有無を確認すべきです。

探偵業法では、探偵業務を行う上で禁止されている行為が定められています(探偵業法第10条)。具体的には、差別につながる調査(例:人種、思想、信条、社会的身分、病歴などに関する調査)、暴力的または脅迫的な手段を用いた情報収集、他人の秘密を不正に探るための違法な手段の利用などが該当します。これらの禁止行為によって得られた証拠は、たとえ内容が真実であっても、その取得方法の違法性から無効と判断されます。

証拠能力を高めるための対策

探偵事務所が収集した証拠の有効性を高めるためには、適法性と信頼性を確保するための対策が不可欠です。

調査を行う際は、その目的と手法が法的に正当であるか常に確認し、適法性を確保することが最も重要です。探偵事務所は、弁護士などの専門家と連携し、最新の法令や判例を常に把握しておく必要があります。必要に応じて、調査計画の段階で弁護士に意見を求めることも有効です。これが法的根拠の明確化です。また、調査対象者だけでなく、その周辺の無関係な人々のプライバシーにも最大限の配慮を払い、必要最小限の範囲での調査を心がけるべきです。撮影や録音の範囲、情報収集の方法などについて、倫理的かつ法的なガイドラインを厳守し、過剰な介入を避けることが重要です。これがプライバシー保護の徹底です。

最新のデジタル技術を活用し、高精細な写真や映像、クリアな音声データを収集することはもちろん、それらの証拠が改ざんや加工がされていない「真正なもの」であることを保証するシステムを構築する必要があります。例えば、電子署名付きタイムスタンプの付与、ハッシュ値の記録、改ざん防止機能付きの機材の使用などが考えられます。これが技術的な正確性の確保です。さらに、調査の全過程(いつ、どこで、誰が、何を、どのように撮影・記録したか)を詳細に記録し、証拠の収集経緯を明確にすることが、証拠の信憑性を裏付ける上で非常に重要です。具体的には、調査日報、撮影時の位置情報付きデータ、時間経過を示すタイムスタンプなどを欠かさず記録し、それらを整理して保管することが求められます。これにより、証拠の連続性と一貫性が担保され、法廷での説得力が高まります。これが詳細な記録の保持です。

依頼者側の注意点

探偵事務所に調査を依頼する側にも、証拠の有効性を確保するために注意すべき点があります。

探偵業は公安委員会への届出制です。依頼を検討している探偵事務所が、きちんと届出を行っている正規の事務所であるか(探偵業届出証明書を掲示しているかなど)を必ず確認してください。無許可の違法な探偵事務所に依頼すると、得られた証拠が無効になるだけでなく、トラブルに巻き込まれるリスクも高まります。また、過去の実績、評判、口コミなども参考にし、信頼性の高い事務所を選ぶことが重要です。これは探偵事務所の選定において最も重要なポイントです。契約を締結する前に、調査方法、費用、報告の形式、証拠の取り扱い方法、万が一違法な調査が行われた場合の責任分担などについて、契約書を詳細に確認し、不明な点があれば納得がいくまで説明を求めましょう。特に、追加料金の有無や、成果が出なかった場合の対応についても確認しておくことが大切です。

探偵事務所が収集した証拠は、あくまで事実を示すものです。その証拠をどのように活用すれば、離婚調停や慰謝料請求といった法的手続きを有利に進められるのかについては、専門家である弁護士からアドバイスを受けることが不可欠です。弁護士は、証拠の有効性を判断し、法的な戦略を立てる上で最も適切な助言をしてくれます。これが法的アドバイスの取得です。また、収集した証拠は、依頼者自身も適切に保管し、紛失や破損がないように管理する責任があります。デジタルデータであれば、複数の場所にバックアップを取る、パスワードを設定するなど、セキュリティを強化することが重要です。また、感情的になって証拠を相手に突きつけたり、不必要に第三者に開示したりすると、証拠の価値を損なうだけでなく、新たなトラブルの原因となるため注意が必要です。これが証拠の適切な管理です。

まとめ

浮気調査において法的に有効な証拠を得るためには、調査方法の適法性と証拠の信頼性が極めて重要です。探偵事務所の選定から、収集された証拠の管理、そして最終的な活用方法に至るまで、依頼者側にも慎重な対応が求められます。

もし浮気調査をご検討されているのであれば、感情的にならず、まずは信頼できる探偵事務所と、法律の専門家である弁護士に相談されることを強くお勧めします。


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